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第15回:『緑膿菌感染症について(その発生と感染予防対策)』

最近、テレビや新聞等で病院等の医療施設で発生する院内感染(日和見感染)の報道記事が少なくなっていますが、大学付属病院等の医療施設では、緑膿菌による感染症(院内感染)が発生して死者も出て問題になっています。この緑膿菌は薬剤耐性を有し、フルオロキノン系やカルバペネム系、アミノ配糖体系などの抗菌薬が効かないため、多剤耐性緑膿菌(multiple-drug-resistant Pseudomonas aeruginosa、MDRP)と呼ばれています。 この緑膿菌の他、院内感染で問題になっている細菌(抗菌薬に薬剤耐性を示す菌)として、グラム陽性菌のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)や腸球菌(VRE)、肺炎球菌(PRSP)、緑膿菌以外のグラム陰性桿菌(大腸菌や肺炎桿菌、セラチア菌、アシネトバクターなど)などがありますが、ここ数年、上記医療施設で多剤耐性緑膿菌による感染症の発生が目立っています。また、上記MRSAなどの耐性菌との混合感染が増えているのも特徴です。院内感染を発生している医療施設は、再発を防ぐため、抗菌薬や消毒法の選択を含め、施設内での感染防止対策(標準予防策:スタンダードプレコーション)の取り組みや衛生管理を徹底しているようです。

緑膿菌はブドウ糖非発酵性の好気性(あるいは通性嫌気性)のグラム陰性桿菌で、弱毒菌です。しかし、体の抵抗力(免疫力)が低い(あるいは低下している)人や幼児、入院患者などに(創傷や熱傷、術後などに)感染すると、肺炎や肺化膿症、尿路感染症、敗血症、髄膜炎、眼感染症、中耳炎、乳児下痢症などの感染症を引き起こします。抗菌薬だけでなく、消毒薬にも耐性(抵抗性)を持ちやすく、術後等の入院患者を上記感染症でしばしば死に至らしめるため、医療現場では、その早期発見と感染拡大防止が求められている代表的な日和見感染菌の一つになっています。感染症法でも、多剤耐性緑膿菌(MDRP)による薬剤耐性緑膿菌感染症を、5類の定点把握疾患に指定して、その発生動向や薬剤耐性化の状況を国が把握して、適切な対応措置がとれる態勢にしています。

このように、緑膿菌は人の生命を脅かす恐い細菌ですが、普段は、私達の身の回りで、どこにでも存在する常在菌(平素無害菌)の一つで、健康な人には、感染しても上記感染症を容易に起こさず、無症状で止まる場合が殆どです。

緑膿菌は、通常、土壌や汚水(下水、廃水など)、海水などの自然界に広く分布し、栄養要求性も低いため水棲細菌(water bacteria)とも呼ばれています。したがって生活環境で水が存在する場所(洗面所や台所の流し場、浴室、トイレなど)の他、給水・給湯器の水栓・蛇口付近、吸水器や花瓶、水槽等の水中でも生息しており、人では上気道や表皮、糞便中などから検出されます。緑膿菌に汚染した皮膚表面等の傷口が化膿して、緑色(あるいは青色)を呈することがありますが、緑膿菌が産生する色素が原因です。このように自然界や生活環境から分離される緑膿菌は、緑色色素(ピオシアニン)や淡緑色色素(フルオレセイン)などの特徴的な色素を産生しますが、医療施設から検出される緑膿菌は前記色素を産生しない菌株が大半を占めています。その上、医療環境に汚染、生存、放置しておくと、その間に、各種の抗生物質や消毒薬等の抗菌剤に耐性、抵抗性を示すようになって効かなくなったり、入院(術後)治療中の患者において菌交代症で出現頻度が高くなったりします。そのため、上記薬剤耐性菌とともに、医療環境の汚染(院内感染)をもたらし易い院内感染起因菌として、その感染防止対策が非常に重要となっています。

緑膿菌は、その発育温度範囲や発育pH域がそれぞれ、4℃〜42℃、5.6〜9.3のごくありふれた細菌です。約100℃の熱水やオートクレイブ中で数分加熱(加温)したり、50℃以上で加熱(加温)すると十数分から一時間で緑膿菌(MDRPを含む)は死滅します。また、市販の消毒薬でも(その薬剤選択と使用方法を誤らない限り)、菌をすべて殺菌することが可能です。

したがって、家庭や医療施設などで上記緑膿菌による感染症の発生を防ぐため、上記消毒など必要な感染予防対策を講じる必要があります。緑膿菌による感染(発症)が疑われた時は、MDRPによる感染も考え、直ぐに医師による的確な診断・治療を受けるとともに、自分だけでなく周囲にいる健康な人への感染や、抵抗力が小さい(あるいは抵抗力が弱っている)人(術後患者や老人、幼児など)への二次感染を防いで感染の拡大を避ける必要があります。

緑膿菌の感染者(保菌者)や感染症の患者から医療従事者や介護者(家族、見舞客を含む)、日用品、医療用具など様々なルートで菌の伝播(感染拡大)が起こらないように、1)手洗いや消毒の励行、2)感染者が使用する日用品や医療用具や、手が触れるドアの取っ手(ノブ)や握り、水栓(蛇口)、手摺りなどを(熱湯や消毒薬等を用いて)消毒、清拭する・・・・などが基本的に最も重要な遵守事項として挙げられます。

市販の消毒薬や、医師から投薬された抗生物質など抗菌性医薬品類を使用する時は、医師や薬剤師などの専門家の指示、指導に従って、より有効な消毒薬や抗菌薬を選択し、薬害(副作用)や菌交代現象などによる健康被害(疾患)を引き起こさないよう、正しく使用あるいは服用することが不可欠です。

上記日常的にごく普通にありふれた常在菌(感染症起因菌)による感染症を起こさないよう、普段から自分や家族の健康管理だけでなく、創傷や熱傷などの怪我や病気をした時の対応や身の回りの衛生管理にも十分注意する必要があります。生活環境で共存している緑膿菌などの常在菌(平素無害菌)が(私達の体に)悪さをしないよう、健康保持や体力(免疫力)維持を図り、身体や室内(住環境)を常に清潔に保って、お互いに感染しない衛生環境を作り、緑膿菌などの常在菌による健康被害を受けない、快適な日常生活を過ごすよう心がけて下さい。